感情の起伏に振り回されない内なるOK:心の状態を安定させるセルフモニタリングの視点
感情の起伏がもたらす内なる疲弊
キャリアにおいて一定の成果を積み重ねながらも、心のどこかに満たされない感覚を抱えることがあります。目まぐるしく変化する状況や、周囲からの期待、あるいは自分自身に課す高い基準の中で、感情は日々大きく揺れ動くかもしれません。成功の瞬間には高揚感を得つつも、些細な失敗や予期せぬ出来事によって、一転して不安や自己否定の感情に苛まれることもあるでしょう。
このような感情の起伏は自然な現象であり、人間である限り避けられないものです。しかし、その波に翻弄され続けると、内面的なエネルギーは消耗し、自己価値を見失いがちになります。感情を「自分自身」と同一視し、「こんな感情を抱く自分はダメだ」と判断してしまうと、自分にOKを出すことは難しくなります。外部からの評価に加えて、内なる声による自己批判が加わり、疲弊感は増していくばかりです。
感情の波に乗らないための「内なるOK」
感情の起伏に振り回されず、心の平穏を保つためには、感情そのものを否定したり、抑え込もうとしたりするのではなく、感情があるがままの自分自身にOKを出す視点が重要になります。これは、感情に蓋をすることではなく、感情の存在を認めつつも、その感情に支配されない状態を目指すということです。
この状態を実現するための一つの鍵となるのが、「セルフモニタリング」という考え方です。セルフモニタリングとは、自分の感情、思考、身体感覚などを、あたかも観察者であるかのように客観的に注意を向けることを指します。これは、心理学やマインドフルネスの実践において、自己理解を深め、感情との健全な距離を築くための基本的なアプローチです。
セルフモニタリングの実践:心の状態を「観察」する
セルフモニタリングは、特別な時間を必要とする大掛かりなものではありません。忙しい日常の中でも取り入れられる、いくつかのシンプルな実践方法があります。
まず、意図的に「立ち止まる時間」を設けてみます。例えば、会議と会議の間、タスクの切り替え時、あるいは通勤中など、意識的に数分間、自分の内側に注意を向ける時間を作ります。その際に、今、自分がどのような感情を抱いているのか、頭の中でどのような思考が巡っているのか、身体はどのように感じているのかを、ただ静かに観察します。
この観察のポイントは、「良い」「悪い」といった判断や評価を加えないことです。例えば、焦りを感じている自分に気づいたら、「ああ、今、自分は焦っているのだな」と認識するに留めます。「焦るべきではない」とか「なぜこんなに焦っているのだろう」といった思考に深入りせず、ただその感情があることを受け入れます。思考が湧き上がってきても、それを「流れていく雲」のように眺める練習をします。
また、簡単な記録をつけることもセルフモニタリングの一助となります。手帳やスマートフォンのメモ機能に、「今日の終わりに感じた主な感情」「その感情が起きた時の状況」などを短い言葉で書き出してみます。これにより、自分の感情のパターンに気づきやすくなります。どのような状況で特定の感情が湧きやすいのか、その感情はどのくらいの時間続くのかなどを客観的に把握することで、感情に飲み込まれるのではなく、コントロール可能であるかのような感覚が得られることがあります。
観察から生まれる内なる安定
セルフモニタリングを実践することで、感情は「自分自身」ではなく、「自分の中に発生しているもの」として捉えられるようになります。これは、感情の波の真ん中にいるのではなく、岸辺からその波を眺めているような感覚に似ています。波の力強さを感じつつも、それに引きずり込まれることなく、冷静に状況を見つめることができます。
このような観察の視点が育まれると、感情の起伏がある自分自身に対しても、以前ほど厳しく批判しなくなるでしょう。「今はこのような感情を感じている時期なのだ」と受け入れ、「それでも自分は自分だ」という内なるOKを出しやすくなります。心の状態が一時的に不安定になったとしても、それは自分自身の価値とは直接関係がないことを理解できるようになるためです。
継続のヒント
セルフモニタリングは、一度行えば全てが解決するものではありません。日々の練習を通じて、少しずつ感覚を掴んでいくものです。完璧を目指す必要はなく、たとえ短い時間であっても、意識的に自分自身に注意を向ける習慣をつけることから始まります。感情に気づけなかった日があっても、自己否定に陥る必要はありません。また明日、試してみよう、と軽い気持ちで継続することが重要です。
忙しい日常の中で、感情の起伏に振り回されがちな時こそ、自分自身の内面に静かに目を向ける時間を持つことが、心の状態を安定させ、内なる平穏を保つ一歩となります。感情があるがままの自分自身にOKを出す視点は、外部評価に依存せず、自分軸で生きるための確かな基盤となるでしょう。セルフモニタリングという実践を通じて、その基盤を強化していくことが期待されます。