成果主義から「存在」にOKを出す:自分自身の価値を認める視点
内なる充足感を求める視点
キャリアにおいて一定の成果を収めているにもかかわらず、どこか満たされない感覚を抱くことがあるかもしれません。常に次の目標を追いかけ、自己評価を成果や外部からの評価に依存してしまう傾向は、多くのビジネスパーソンに見られるものです。このような成果主義的な価値観は、達成感をもたらす一方で、「もっとできるはずだ」「このままでは不十分だ」といった内なる声を生み出し、心の疲弊につながる場合があります。
成果主義がもたらす内なる課題
成果を追求すること自体は、成長や発展の重要な原動力となります。しかし、自己の価値を専ら達成した結果や能力、外部からの評価に置くようになると、自分自身は常に「成果を出すための手段」あるいは「評価される対象」となってしまいがちです。
この状態が続くと、成果が出ない時や期待に応えられなかった時に、自己価値が大きく揺らぐことになります。また、たとえ大きな成功を収めたとしても、その達成感は一時的で、すぐに次の目標やさらなる高みへのプレッシャーにすり替わり、持続的な心の充足感を得ることが難しくなるのです。自己肯定感が、外部の不安定な要素に左右される砂上の楼閣のようになってしまいます。
「存在」にOKを出すという考え方
ここで提案したいのが、「成果」や「評価」とは異なる次元で、自分自身の「存在」そのものにOKを出すという視点です。これは、「何をしたか」ではなく、「今、ここにいること」や「自分自身であること」に価値を見出す考え方です。
「存在にOKを出す」とは、特別な能力や輝かしい実績がなくても、完璧でなくても、弱さや欠点があると感じていても、ありのままの自分自身を否定せず、受け入れ、尊重することを意味します。それは、外部からの評価や条件付きの自己肯定ではなく、内側から湧き上がる無条件の自己受容に基づいています。
「存在」にOKを出すための実践的なヒント
この「存在にOKを出す」感覚を育むために、日常生活の中で試せるいくつかの方法があります。
- 意識的な立ち止まり: 忙しい一日の合間や、何かタスクを終えた後などに、数秒から数分間、意識的に立ち止まります。呼吸や、足が床についている感覚、周囲の音など、五感を通じて「今、ここにいる自分」を感じてみます。これは、思考の世界から離れ、物理的な存在としての自分を認識する練習です。
- 内なる声への耳傾け: 自分の感情や体の声に注意深く耳を傾けてみます。疲労を感じたら休息を、不安を感じたらその感情をただ認めます。これらの感覚を「良い」「悪い」と判断せず、ただそこに「ある」ものとして受け入れる練習は、ありのままの自分を受け入れる第一歩となります。
- 「Doing」から「Being」への意識転換: 自分が「何を成し遂げたか(Doing)」ではなく、「今、どのような状態でいるか(Being)」に焦点を当ててみます。例えば、プロジェクトの成果ではなく、「今日は集中して取り組むことができた」「チームとのコミュニケーションを丁寧に行えた」といった、行動の「質」や「あり方」に目を向けます。
- 完璧ではない自分への肯定: 失敗や間違いを犯した時、あるいは計画通りに進まなかった時に、自分を厳しく批判するのではなく、「人間だから間違うこともある」「次はこうしてみよう」と、完璧ではない自分を受け入れ、その状況で最善を尽くした自分自身に静かにOKを出してみます。
- 成果に直結しない営みへの価値: 趣味の時間、家族や友人との他愛ない会話、ただ静かに過ごす時間など、仕事の成果に直接結びつかない日々の営みの中に、自分自身の存在を満たす価値を見出します。これらの時間は、「成果を出さなければ」というプレッシャーから離れ、「ただ存在する自分」に許しを与える大切な機会となります。
内面的な豊かさへの道
成果を追い求めることと、「存在」にOKを出すことは、互いに排他的なものではありません。むしろ、「存在」に確かなOKを出せるようになることで、外部評価に過度に左右されることなく、より穏やかで持続可能なモチベーションをもって成果に取り組むことができるようになります。
自分自身の存在そのものに価値を認め、「OK」を出せるようになることは、外部からの評価や達成した成果といった条件に縛られない、内なる充足感と心の平穏へとつながる確かな道筋となるでしょう。それは、キャリアの成功のその先にある、自分自身の内面的な豊かさを見つける旅でもあります。